多重比較法

◆多重比較法とは◆

2群の平均値を比較するにはt 検定を用いる。3 群以上の平均値の比較には分散分析を利用する。分散分析は対象とする全群に対して一度に検定を行うため、全体的な平均値の相違を把握できるが、どの群間に有意差があるかは把握できない。
分散分析によって全体的な相違が認められた場合、どこの群間に有意差があるかを調べなければならない。

多重比較法は、3群以上の母平均の比較においてどの群間で有意差があるかを検討する解析方法である。


多重比較を行う前には分散分析が必要か

「分散分析の帰無仮説は”各群の平均値は全て等しい”であり、どの群とどの群に差があるかは、多重比較を行わなければならない」というのはある意味で正しいが、「多重比較の前には分散分析を行わなければならない」は必ずしも正しくない。
 分散分析では有意差はなかったが、多重比較のある群間では有意差が出ることがある。
どの群間に有意差があるかに注目するだけならば、分散分析は用いず最初から多重比較を適用すればよい。

3群以上でどの群間に有意差があるかの検定は、t検定を適用してはいけない

分散分析で取り上げた【具体例】から得られた結論は、「3メーカーの洗濯機の評価に差がある」ということであった。
ここで出された結論から、3メーカーに差があることは分かったが、どのメーカーが良いとか、メーカー間相互の優劣まではわからない。このわからないことを解決してくれるのが、多重比較法である。
H、M、Nの3メーカーについて、H-M、H-N、M-Nの すべてについて従来のt検定を行うと、それぞれについては有意水準5%で判定していても、全体としては有意水準が大きく(下記に解説するが14.3%)なってしまう。そのため、有意差がでやすい検定をしていることになる。
多重比較法とはどんな手法であるかを一言でいうならば、3つ以上の群を比較する場合、有意差が「でやすくなる」を統計学的ルールにしたがって抑える検定であるといえる。すなわち、有意水準は5%でなく、5%より小さい値で  
p値と比較し有意差判定する。

多重比較で用いる有意水準は次式となる。

  有意水準=5%÷比較する群の組み合わせ数

群数=Kとしたときの組み合わせ数は次式によって求められる。
組み合わせ数=K(K-1)÷2
群数が3個の場合  群数=K=3
組み合わせ数=3×2÷2=3
群数が3個の有意水準
5%÷組み合わせ数=5%÷3=1.67%

有意水準は5%でなく1.67%なのか

このことを理解するには確率の知識が必要である。
外れる確率が5%と、くじを引く人にとって有利なくじについて、3回くじを引いたとき少なくとも1回外れる確率を計算してみる。
外れる確率  5% 0.05
当たる確率 95% 0.95
3回とも当たる確率  0.95×0.95×0.95=0.857 → 85.7%
少なくとも1回外れる確率  100%−85.7%=14.3%
外れる確率がわずか5%でも、そのくじを3回引いたとき、少なくとも1回外れる確率は14.3%になる。

3メーカーの2群間相互について、t検定を行ったとする。
1つの組み合わせについて、p値<0.05(有意水準5%)であれば「差がある」という結論が得られる。
「その判断は正しいか」の問に対し、統計学では「間違えるとしたら5%以下である」という回答になる。
3つの組み合わせ全てのt検定を同時に行ったとき、「少なくとも1つ間違っている確率は」の問に対しての回答はどうなるか。
先の確率計算で述べたように、3つ組合せのうち、少なくとも1つ間違える確率は14.3%になる。 統計学の判断基準として14.3%は大きすぎる。
各組み合わせの有意水準を5%でなく 1.67% とした検定を3個同時に行うと、少なくとも1つ間違う確率は 5% となる。

  外れる確率  1.67% 0.0167
  当たる確率 98.33% 0.9833
  3回とも当たる確率  0.98339×0.98339×0.9833=0.950 → 0.95(95%)
  少なくとも1回外れる確率  100%−95%=5%

有意差が「でやすくなる」を統計学的ルールにしたがって抑える調整方法

多重比較は有意差が「でやすくなる」を統計学的ルールにしたがって抑える検定方法である。有意差が「でやすくなる」を統計学的ルールにしたがって抑える調整方法としては下記の2つが挙げられる。

① 有意水準の調整
  先に示したように有意水準は5%でなく、3群の場合、5%より小さい1.67%
  を適用する。
② 分布自体の調整 
  検定統計量が従う分布にはt分布やF分布などがあるが、多重比較独自の
  スチューデント化されたq分布を適用する。

群の比較「対比較、対照との比較、対比」とは

群の比較の仕方には「対比較、対照との比較、対比」の3通りがある。

●対比較
対比較」は、比較する群すべての組み合わせについて検討する方法である。4群の場合、組み合わせ数は4×3÷2=6通りである。

●対照との比較
対照との比較」は、対象とする群と他の群との組み合わせについて検討する方法である。4群の場合、組み合わせ数は4-1=3通りである。
例えば、4群A・B・C・D の比較で、対象群をAとする場合の組み合わせはA・B、A・C、A・Dの3通りである。


●対比
対比」は複数群の中の任意の群を比較する方法で2タイプある。
<群をグループ化して比較する方法>
  例えば、5群A・B・C・D・E の比較で
(1)A・B・C・Dの各群の平均値よりも、E の平均値が大きい。
(2)A・B・Cの各群の平均値よりも、D・E の各群の平均値が大きい。
(3)A の平均値よりも、B・C・D・Eの各群の平均値が大きい。
<群別平均の大小関係の傾向を把握する方法>
   例えば、4群A・B・C・D の比較で
(4)平均値は「A < D = C = B」の傾向がある。
(5)平均値は「A < D < C < B」の傾向がある。

対比較の多重比較検定は、比較する群数が増えれば増えるほど組み合わせ数は多くなり(有意水準は小さくなり)有意差が出にくくなる。
比較する群すべての組合せについて有意差を調べる必要がない場合、「対照との比較」「対比」を適用する。

 多重比較の帰無仮説・対立仮説と両側検定・片側検定

●群の比較が「対比較」の場合
・帰無仮説
  全組み合せにおいて対となる母平均は等しい
・対立仮説
  全組み合せにおいて対となる母平均は異なる
・両側検定、片側検定
   両側検定のみで片側検定はない。

●群の比較が「対照との比較」の場合
・帰無仮説
  対照群と比較群の組み合せにおいて対となる母平均は等しい
・対立仮説(1)
  対照群と比較群の組み合せにおいて対となる母平均は異なる
   両側検定
・対立仮説(2)
  対照群と比較群の組み合せにおいて、対照群は比較群より大きい(小さい)
   片側検定

●群の比較が「対比」の場合
・帰無仮説
  全組み合せにおいて対となる母平均は等しい
・対立仮説(1)
  全組み合せにおいて対となる母平均は異なる
   両側検定
・対立仮説(2)
  「A < D < C < B」の傾向がある。
   片側検定

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